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小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

日銀のマイナス金利政策がネコ騙しである理由

 前々から感じていたのですが...マイナス金利っていうのは、相当に人々の関心を引くようですね。

 つまり、サプライズというか、意外性があるというか、常識に反しているというか...

 それはそうですよね。お金を貸したり、預けたりすれば、利息がもらえる筈なのに、反対に利息を払えなんて言われてしまう訳ですから。

 で、その点を衝いた作戦が見事に成功したのが、昨日の黒田総裁なのでした。

 「くろとん、お前もワルよ、のー」

 黒田総裁のことをよく知っているかつての同僚たちなどは、恐らくそのような感想を抱いているのではないでしょうか?

 いずれにしても、取り敢えず奇襲作戦は成功!

 グラフをご覧ください。

マイナス金利発表後の日経平均.jpg

 昨日の日経平均の動きですが、凄い乱高下でしょう?

 マイナス金利と聞いて、どっと反応したかと思ったのも束の間、そうはいっても本当に効果があるのだろうかという疑問が湧いて、期待が萎んだかとかと思えば、またまたマイナス金利政策への期待が膨らんだ、と。

 私思うのですが、今回のマイナス金利政策に関し、自分は半信半疑ながらも、一般の投資家は案外期待していると思って、取り敢えず全体の流れに乗ろうという投資家が多いだけのことではないか、と。

 いずれにしても、この効果は今後も続くのでしょうか?

 はっきり言って私は極めて懐疑的に見ています。

 いえ、何もマイナス金利政策の効果を全否定するつもりはないのです。

 仮に、日本が欧州で行われているようなマイナス金利政策を採用するのであれば、少なくても通貨安を引き起こす効果は期待できると思います。

 しかし、今回、日銀がマイナス金利政策を打ち出したといっても、実際にマイナス金利が適用されるのは、今市中銀行が保有している日銀当座預金のうちの1割にも満たないと言われています。

 ということは、誤解を恐れずに言えば、今、0.1%の金利を付けて上げているのを、0.09%とか0.08%に引き下げることにしたというのに等しいのです。

 ただ、これまでの0.1%の金利を0.09%に引き下げるなんて言っても、マーケットに与えるインパクトは殆どありません。ゼロにしたといっても、同じでしょう。そのようなことだと何の新鮮味もないのです。

 だから、全体としては、決してマイナスの金利にならなくても、敢えて「マイナス」という言葉を用いて、マーケットに意外感を与えたかっただけなのです。

 意外感を与えて、期待させることに成功したから株価や為替が反応をした、と。

 ここまでのことはご理解頂けたでしょうか?

 でも、それでは何故黒田総裁は、これまでゼロ金利政策はあり得ないとの立場を取り続けてきたのでしょうか? そしてまた、何故急に考え方を変えたのでしょうか?

 実はゼロ金利政策はあり得ないというのは、既存の量的・質的緩和(策)の構造から考えると当然の帰結だからです。

 というのも、昨日もご説明したとおり、既存の量的・質的緩和(策)は、2年でマネタリーベースを倍増するとか、1年で80兆円のペースでマネタリーベースを増やすことを骨子としたものですが、そうやってマネタリーベース(市中銀行が預けている日銀当座預金)を増やすためには、日銀当座預金に金利を付けてやるなどの措置を施さないと不可能だからです。

 一般の方々は、そもそも当座預金というものをよく分かっていないかもしれません。

 だから、日銀当座預金に0.1%の金利を日銀が付けてあげてもなんとも思わない!

 しかし、企業の経理担当者だったら、当座預金に0.1%の金利が付くなんて凡そ信じられないことなのです。何故ならば、当座預金はいつでも引き出しが可能であり、もっぱら預金者の資金決済を可能にするための口座でしかないからです。

 そんな口座に手数料をかけることはあっても、利息を払うなんて普通考えられません。

 しかし、どういう訳か...というよりも、日本は、米国のやり方を真似て2008年頃から日銀当座預金に0.1%の金利を付けてあげているのです。

 市中銀行としては、当然のことながら、もし日銀当座預金に金利が付かないのであれば、最低限度のお金しか預けておかないのです。必要以上のお金を預けておいても、利子が稼げず無駄になってしまうからです。

 その一方で、リフレ派の主張する政策は、マネタリーベースを増やすことによってマイルドなインフレを起こすために、どうしても市中銀行にお金を預けさせる必要があり、従って、日銀当座預金に金利を付ける政策を放棄する訳にはいかないのです。

 当然ですよね?

 そしてまた、黒田総裁もそう考えていたから、マイナス金利政策はあり得ないと答弁していた、と。

 しかし、ご承知のように、年明けからマーケットは大混乱。中国発の株価下落が続き、為替も円高に振れた、と。

 そろそろ何かをやる必要があったのです。

 そこに、ご承知のように甘利大臣の問題が発覚し、甘利大臣が辞職する羽目になった、と。甘利大臣はアベノミクスの司令塔とまで言われた人ですから、なおさら何かを打ち出す必要があったのです。

 それに、そもそも安倍総理自身が、かつてからマイナス金利を導入すべしとの意見の持ち主であったことも忘れてはいけません。

 つまり、本来であれば、黒田総裁としても、安倍総理の意向を尊重してマイナス金利政策を採用できたらなあと考えていた節がなきにしもあらず。しかし、上に述べたように、仮にマイナス金利政策を採用すれば、量的・質的緩和策の構造を崩壊してしまう恐れがあったためにできなかったのです。

 まあ、そこでいろいろ黒田総裁も考えたのでしょうね。

 とにかく、今ある量的・質的緩和策をここで投げ出す訳にはいかない、と。しかし、同時に、マイナス金利政策を打ち出してマーケットにサプライズを与える方法はないものか、と。

 で、考え出したのが、今回のネコ騙し戦略です。

 冒頭で述べたように、今回の措置によってマイナス金利が適用になるのは、現在預かっている日銀当座預金の1割にも満たない部分でしかありません。従って、全体を平均してみたら、これまでつけていた0.1%の金利を0.09%程度に引き下げるのと同じようなこと。

 しかし、それでも、市場関係者の多くはそんな細かいことは考えずに、単にマイナス金利という言葉に跳びつくかもしれないと思ったのでしょう。

 そして、黒田総裁のネコ騙しに市場関係者はまんまとひっかかったのです。

 でも、ネコ騙しに引っかかったとしても、本当にその効能を信じていた訳ではない可能性もあります。そして、仮に気が付いていても、株価が上がったのだから、結果オーライなんて思っているかもしれません。

 このネコ騙しのゼロ金利政策に対して、一番、嫌な思いをしているのは、案外、黒田総裁と、彼を支える日銀のスタッフかもしれません。

 昨日までの数日間、日銀の関係部署は、完全に外部をシャッタアウトし、コンビニの弁当を食べながら徹夜で仕事をしていたと報じられています。

 ネコ騙しの政策を打ち出すために、つまり世間を欺くために、徹夜の作業になるなんて...

 でも、どうしても官邸のご機嫌を損なう訳にはどうしてもいかなかったのでしょう。

 最後に、一言。

 仮に、今後、日銀が真の意味でのゼロ金利政策に着手するようになったら、お金を借りると得をして、お金を貸すと損をする状態が発生します。

 そうなると、今ある、1千兆円ほどの政府の借金も、マイナス金利のお蔭で少しずつ元本が減っていくかもしれません。

 そんな話を聞いて、貴方はどう思います?

 めでたし、めでたし?

 でも、国債を購入したら、金利が得られるどころか、元本が減るというのでは誰も国債を買いたがらなくあるでしょう。つまり、政府の資金繰りはそこでストップし、財政は破綻してしまうのです。

 それに、本当にマイナス金利になってしまえば、多くの預金者が預金を引き出してしまうので、今の金融システムが維持できなくなってしまうでしょう。それに、預金者に入る利子収入がマイナスになるので、預金者の購買力が益々奪われ、消費はさらに勢いを失ってしまうでしょう。

 つまり、今回のマイナス金利は、今まで以上に家計を苛める政策以外の何物でないという訳なのです。


以上

最新の小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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