FX外国為替情報のKlug(クルーク)
為替、海外投資でハイリターンを得るためのニュース、レポート、コラムを掲載

みんかぶFXとの統合のお知らせ

平素はKlugFXをご利用いただきありがとうございます。KlugFXは12月8日をもって、みんかぶFX(https://fx.minkabu.jp/)と統合いたします。KlugFXをご利用いただいているユーザーの皆様には、みんかぶFXをご利用くださいますようお願い申し上げます。

株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド

第101回 「歴史の教訓」と「通貨の信認」(2/3)

(1/3の続き)

 いずれにせよ、関東大震災から226事件まで、日本のインフレ率はきわめて低い水準(多くの年でマイナス)で推移した。その後、1937年に日中戦争が始まり、東京の小売物価指数は上昇していく。

 今も昔も、戦争こそが最もインフレ率を高める。何しろ、戦争の主役を務める軍隊は、ひたすら消費をするだけで、生産行為はほとんど行わない組織だ。日本国内で生産される武器弾薬は、次々に軍隊により消費されるわけだが、その費用はもちろん政府支出により賄われる。政府支出にしても、GDPの需要項目の一部だ。リソースが軍に割かれ、供給能力が高まりにくい中、需要が拡大する一方になるため、物価は上昇傾向に向かうわけである。

 もっとも、日中戦争期の日本の物価上昇率は、図101-1の通り、高くても対前年比で16%(1940年)である。例えば、1974年の「狂乱物価」の時代の日本のCPI上昇率は、23.2%であった。日中戦争期は物価上昇率が高まったとはいえ、オイルショック後の日本のCPI上昇率を下回っているのである。

 日本の物価上昇が本格化するのは、1941年以降だ。すなわち、太平洋戦争勃発以降なのである。

 いずれにせよ、高橋是清存命の時代、東京小売物価指数の上昇率は、ピークの1933年であっても6.5%に過ぎなかった。小売物価指数上昇率6.5%を「凄まじいインフレ!」と評価するかどうかは、個人の価値観の問題ではある。とはいえ、少なくとも数字で見る限り、当時の物価上昇率が高度成長期の日本を下回っていたのは確かだ。

 すなわち、日銀の国債引き受けが「インフレを暴走させた」という歴史的事実は存在しない。何しろ、当時の日本は現在同様にデフレ状況、あるいは恐慌状況だったのだ。デフレとは、国内の供給能力が「充分過ぎる」状況である。そんな環境下において、日銀が国債を引き受け、日本円を市場に供給したところで、少なくとも「インフレが暴走」するなどという事態は発生し得ないのだ。

 もちろん、戦争が激化し、軍需が急拡大した場合は話が別だ。供給が需要に追いつかなくなれば、当然ながら物価は上がっていく。とはいえ、少なくとも226事件以降の日本の物価上昇は、高橋是清が実施した日銀国債引き受けのためではない。単純に、戦争が拡大した結果、軍隊の需要が急増し、日本国内の供給能力が追いつかなくなったためである。


『2011年5月9日 ロイター「財務省出席者が果断な金融政策を要望=日銀会合議事要旨

 日銀が9日に発表した4月6─7日開催の金融政策決定会合の議事要旨では、財務省出席者が「日銀においては今後とも、東日本大震災が経済や市場に与える影響や復興の状況等を踏まえながら、果断な金融政策対応をお願いしたい」と発言したことが明らかになった。また一部取りざたしている日銀による国債引き受けについては「政府として検討していない」と明言している。

 議事要旨によると、ある委員は「最近、復興財源を捻出するため、日銀が国債を引き受けるべきとの主張が一部に聞かれるが、そうした取り扱いは、初めはうまくいったようにみえても、早晩、激しいインフレを招き、国民生活に大きな打撃を与えたというのが歴史の教訓であり、この点について、広く理解を得る努力を続ける必要がある」と述べた。複数の委員は「中央銀行による国債引き受けが行われ、通貨への信認が毀損すると、長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招き、現在、円滑に行われている国際発行が困難になるおそれもある」との認識を示した。(後略)』


 いつも思うのだが、日銀の国債引き受けに反対する人たちが言う「歴史の教訓」とは、具体的に「いつ」を指しているのだろうか。「歴史の教訓」という言葉を使っている以上、何年何月の何々内閣による国債引き受けと、特定できるはずだ。

 現実には、日銀の国債引き受けが「激しいインフレを招き、国民生活に大きな打撃を与えた」などという事実は存在しない。少なくとも、太平洋戦争時の物価上昇も、あるいは戦後の混乱期におけるインフレ率高騰も、高橋是清の日銀国債引き受けとは関係がない。太平洋戦争のような大戦争を戦い、国内の工場などが空襲で焼け野原にされてしまえば、国債引き受けをしようがしまいが、インフレ率は高騰するだろう。

 何しろ、太平洋戦争終了時、日本の供給能力は戦前の二割にまで落ち込んだと考えられているのだ。それまで「100」生産できていた日本経済が、「20」しか生産できなくなってしまったわけだ。戦争で多くの日本人が亡くなったとはいえ、需要のほうまでもが二割に落ち込むわけではない。当時の日本経済の供給能力が、国民の需要を満たすことができず、物価が急騰したのは、当たり前すぎるほど当たり前である。

(3/3に続く)


本ブログの「デフレ」関連記事はこちら。

【Klugよりお知らせ】

5月10日発売の新刊『歴代総理の経済政策力』はAmazon他全国書店で発売中!

Klug初の連載単行本化!
当ブログ・三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」が本になりました。
タイトルは「今、世界経済で何が起こっているのか? 」。
Amazonほか全国書店で発売中!

最新の三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

メールマガジン

山岡和雅が毎日発行!
外国為替ディーラーの心の中

毎日の為替相場を、市場参加者の目を通して判り易く解説。為替ディーラーの本音は?【まぐまぐ殿堂入り】

バックナンバー

朝刊 ニューヨーク為替市場レポート
米国市場の動きを、朝一番に配信!! FX、外国為替、米国株、米国金利など、テレビやWEBサイトでは得られないニューヨーク金融市場情報のほか、アナリストの独自解説も配信します。

バックナンバー

powered byまぐまぐトップページへ