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第一回 日本の財政問題に関するマスメディアのミスリード(1/3)

 日本のマスメディアは、日本政府の債務問題(いわゆる財政問題)を報道する際に、「国民一人当たり○○○万円の借金」というフレーズを多用する。

 ちょうどタイミングよく、先日、財務省が2008年末時点の「政府の債務残高」を発表した。これを受け、国内マスメディアが報じた記事が、まさにこのフレーズを使っていたため、思わず苦笑してしまった。

代表的な記事ということで、共同通信の記事へのリンクを貼っておく。

 『08年度国の借金846兆円に 国民1人当たり663万円(共同通信)』
 http://www.47news.jp/CN/200905/CN2009050801000625.html

 正直、財務省の発表や共同通信の記事の中身については、あまり真剣に読まれる必要はない。読みたいというのであれば特に止めないが、重要なのは記事の内容ではないのである。
 この記事において最も注目して欲しい部分は、以下の二つになる。

Ⅰ.財務省(やマスメディア)が、「政府の借金」について「国の借金」と呼んでいる。
Ⅱ.マスメディアが政府の借金について、「国民一人当たり約663万円の借金」と呼んでいる。

 実は、財務会計に詳しい人であればすぐにピンと来ると思うが、上記Ⅰ及びⅡの認識は根本から間違えている。率直に言って、悪質なミスリードとしか呼びようがないのだ。

 まずはⅠから説明するが、そもそも社会主義国じゃあるまいし、日本の国家経済において「経済主体」となっているのは、何も政府だけではない。政府以外の経済主体としては、家計、金融機関、非金融法人企業(いわゆる一般企業)、そして民間非営利団体(いわゆるNPO)の四つが存在している。これは別にイメージの話をしているわけではなく、日本銀行が国家経済の統計を取る際に、様々な経済主体をこれらの区分に整理しているのだ。すなわち、会計上の区分なのである。

 共同通信の記事では、日本政府の債務について「国の借金」と書かれているが、これは考えるまでもなくおかしい。国の借金とは、正しいバランスシート(貸借対照表)用語を使うと「国の負債」となる。この「国の負債」について記事を書くのであれば、日本政府の債務以外にも、家計や非民間金融法人企業、金融機関や民間非営利団体の「負債」までも含まなければならない。

 ちなみに、共同通信の記事で省かれている四つの経済主体を含めた「日本国家全体の負債」は、総額が5271.6兆円となる。財務省やマスメディアが発表する「国の借金846兆円」の、何と五倍近くにも及ぶのだ。

 
【図1-1 日本国家のバランスシート 2008年12月末日時点】(単位:兆円)

20090526_01_01.gif
 出典:日本銀行「資金循環統計」より筆者作成
 ※各経済主体の資産は、金融資産のみ。不動産等の固定資産は含まない。


 とは言え、別に日本国家には負債だけが存在しているわけではない。日本国家は負債の額も巨額だが、資産額はそれを大きく上回っている。

 図1-1「国家のバランスシート」を見て頂ければ一目瞭然だが、日本国家の資産は5,515.1兆円と、負債額をはるかにしのいでいるのだ。すなわち国家全体としては、日本は243.5兆円の「純資産」になるわけだ。意外に知らない人が多いが、「国家の純資産(または純負債)」と「対外純債権(または純債務)」はイコールになる。

 図1-1では、国家の純資産243.5兆円に対し、対外純資産が241.1兆円と、若干の誤差が生じている。これは、四捨五入の関係で「国家の純資産」が正しい数値よりも、わずかながら大きくなってしまうためだ。四捨五入をせず、全数値をそのまま合計すると、日本国家の純資産は241.1兆円となり、対外純資産の額と一致する。

 純資産(=対外純資産)を見る限り、日本は国家としての「資産」が「負債」の額を240兆円以上も上回っているわけである。実は、この241.1兆円という金額は、国の純資産(=対外純債権)としては世界最大である。何を隠そう、日本は国家としては世界一の金持ちと言えるのだ。

 国として、世界一の金持ちである日本政府の借金問題を語る際に、「国の借金」と表現するのは、明らかにミスリードと言える。正しくは「政府の負債」と書かなければならないはずだ。

(2/3に続く)

最新の三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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