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増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル
【お知らせ】「増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル」は6月30日で終了いたしました 。
いつも「増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル」をご愛読いただきまして誠にありがとうございます。当ブログは2007年5月より連載してまいりましたが、2011年6月30日(木)をもって終了いたしました。4年間にわたる皆様のご愛顧に感謝し、御礼申し上げます。

米財務省とFRB、金融機関の不良債権買い取りへ=金融安定化対策

-MBS買い取り拡大とマネーマーケットファンド救済へ-

【2008年9月20日(土)】 - ヘンリー・ポールソン財務長官は19日、記者会見し、銀行や証券会社などの金融機関が保有する不良債権(不良債権化した住宅ローンやその証券化商品であるMBS)を公的資金で買い取るための新制度の創設とマネーマーケットファンド市場の救済を柱とする金融安定化対策の大枠を発表した。

 同長官は、この日の会見では、不良債権の買い取り方法など詳細には一切、言及しなかった。しかし、今週末いっぱいまでに、共和、民主の両党のトップと意見調整を図り、来週にも政府に不良債権処理を進める権限を与える法案を議会に提出、立法化を目指すとだけ明らかにしている。

 ただ、不良債権の買い取り制度については、1980年代に起きたS&L(貯蓄貸付組合)危機を乗り切るため、政府が1989年に設立したRTC(整理信託公社)の現代版RTCを発足させるという見方が有力だ。

 当時、RTCは破たんしたS&Lを国有化し、その財産処分を行ったが、1995年末までに900億ドルの公的資金が投入されたといわれる。

 全体として、政府の金融対策は、クレジット市場への資金供給を一段と潤沢にすることで、金融不安を払拭することを狙ったようだ。また、同時に銀行の貸し渋りを解消して景気浮揚につなげることを狙っているといえそうだ。

●政府によるMBS買い取りを大幅増額へ

 ポールソン財務長官は、会見で、MBSの買い取り拡大について、二つの方法を挙げている。一つは、政府系住宅金融(GSE)のファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)の2社が金融機関からMBSの買い取りを拡大するもので、直ちに実施すると述べた。

 すでに、財務省は7日に、ファニーメイとフレディマックのGSE2社を政府の管理下に置く救済策を発表した際、2社はMBS市場の安定化のため、2009年末まではMBSのポートフォリオへの組み入れを2社合計で現行の1兆5000億ドル(約160兆円)から1兆7000億ドル(約182兆円)まで2000億ドル(約2兆円)増やすと発表している。

 もう一つは、救済策の発表時に、政府は今月後半から2社が発行するMBSを50億ドル(約5400億円))相当購入すると発表したMBS買い取りの新制度だ。ポールソン財務長官はこの新制度の規模をさらに拡大するとした。一部報道によると、このMBS買い取り規模を2倍の100億ドル(約1兆1000億円)に拡大する考えだ。

 同長官は、MBSの買い取り拡大の狙いについて、政府主導で不良債権を一掃することで、金融機関の経営を圧迫しているMBSの流動性を高め、住宅ローンの原資調達を助けることだと、述べている。

 さらに、同長官は、「金融機関が抱えている巨額の非流動性資産(価値が下がって売買が難しくなり流動性が低下した不良資産)が金融システムを閉塞状況に陥らせており、健全な金融機関に打撃を与えている。その結果、国民の預金が脅かされ、個人や企業の資金調達力や雇用創出に悪影響を与えている」と指摘している。

●MBS買い取りにかかるコストは最大で100兆円規模か

 また、同長官は、この不良債権化したMBSの買い取りに要する資金は数千億ドル(数十兆円)規模に上る見込みだとしている。日本でもこうした銀行の不良債権処理は10年前の1998年に経験済みだ。

 当時の日本の国会では、銀行に約60兆円にも及ぶ公的資金枠を設定し、不良債権処理を進める一方、約40兆円もの財政出動による景気刺激策を講じて、デフレ経済からの脱却に取り組んだのは記憶に新しい。しかし、その後、デフレ脱却までには数年もの長い歳月がかかっており、米国の今回の不良債権処理策も第1段階に過ぎない。

 米国政府は過去1年間で、金融界の大手金融機関の救済のため、すでに総額で6000億ドル(約64兆円)以上もの救済策を明らかにしているが、今度の金融安定化対策では、さらに1兆ドル(約107兆円)近い税金投入が予想されている。

 上院の銀行住宅都市委員会のリチャード・シェルビー議員(アラバマ州選出)は19日、ABSテレビとのインタビューの中で、MBS買い取りに伴う支出は5000億ドル(約54兆円)から1兆ドルになると予想している。

 ポールソン財務長官は、国民の税金を投入することについて、「かなりの税金投入になったとしても、金融システムの安定を図ることが最終的には納税者の保護につながる」と述べ、ある程度の国民負担はやむを得ないとの考えだ。

●マネーマーケットファンド市場を救済へ

 これより先、19日の朝方、株式市場が開く前に、政府は1930年代の大恐慌以来といわれるESF(為替安定基金)を適用した。国内の企業や銀行などが発行する短期債券に投資するマネーマーケットファンド(短期金融資産投資信託)の払い戻しを保証するため、最大500億ドル(約5兆4000億円)の金融支援措置を取ることを明らかにした。

 FRBも政府を支援する形で、2兆ドル(約214兆円)市場といわれるマネーマーケットファンドが元本割れを起こし、投資家から解約請求が殺到している事態を重く見て、新設したばかりの緊急融資制度を拡大するとしている。

 マネーマーケットファンド市場の混乱の引き金となったのは16日のリザーブ・プライマリー・ファンドの純資産額の急落だった。投資先の米投資銀行大手リーマン・ブラザーズが発行した証券の価値がリーマンの破産でゼロとなり、同ファンドの1口当たりの基準価額が65%も急落、1ドルを割り込んだため、投資家がパニック的に解約に走ったためだ。

 この措置によって、民間銀行はマネーマーケットファンドが保有する資産担保CP(ABCP)を買い取るための資金を公定歩合(民間金融機関に資金を貸し出すときに適用される金利である)の低金利で、しかも、ノンリコース(ローン返済ができなくなったときに、担保になっている資産以外に債権の取り立てが及ばない非遡及型融資)ローンとして、FRBから調達することが可能になる。

 その一方で、マネーマーケットファンドの運用会社は顧客からの解約請求に安心して応じ、資金償還が可能になるという仕組みだ。マネーマーケットファンドが保有するABCPは約2300億ドル(約24兆6000億円)と見られている。同融資制度は来年1月末まで延長され、融資期間は最大270日となっている。

●FRB、ファニーメイとフレディマックの割引手形買い取りへ

 また、FRB傘下のニューヨーク連銀は19日、ファニーメイとフレディマック、住宅ローンの融資を行っている金融機関に低コストの資金を提供している12の連邦住宅貸付銀行(FHLB)が発行する割引手形を、他の国債と同様、プライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)から数年ぶりに買い取ることで、金融システムへの潤沢資金供給を図ることを発表、即日実施した。

 この措置は金融システムに資金を潤沢供給することが狙いで、これにより、銀行は貸し渋りを緩和させることが期待されているのだ。

●SEC、金融株の空売り取引停止を通達

 さらに、ニューヨーク株式市場では、金融関連セクター株の急落の原因となった空売り取引の規制強化策が19日、SEC(証券取引委員会)から発表されている。SECのクリストファー・コックス(Christopher Cox)委員長は、一時的に約800銘柄の金融関連株に対する空売りを禁止する措置を取ったほか、毎日の空売り取引の情報開示を発表した。

 これは、今週、金融セクター株の急落を受けて、金融界から空売り規制を強化するよう圧力を受けており、緊急対策を講じざるを得ない状況になっていたからだ。

 また、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ司法長官も18日、金融セクター株に対する空売り取引で違法行為がなかったかどうかについて調査を開始すると発表した。

 クオモ長官は、多数の金融セクター株の空売り取引の実態にメスを入れるとし、調査対象には15日に連邦破産法第11条の適用を申請した米証券4位のリーマン・ブラザーズや政府の管理下に入った世界保険最大手AIG、さらに、米証券1位と2位のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが含まれるとしている。

 また、クオモ長官は、SECに対し、一時的に金融株に対する空売り取引を停止するよう要請したことも明らかにしており、停止期間は30日間が望ましいとしている。SECは今年7-8月に金融大手19行を対象に29日間の空売り規制を実施している。

 一方、ニューヨーク州のトーマス・P・ディナポリ(Thomas P. DiNapoli)会計監査官は18日、ニューヨーク州公務員年金(New York Common Retirement Fund)が空売り取引に必要な貸株を一時停止すると発表した。停止されるのは19行の銀行や証券会社の1億0500万株強の株式となる。

 また、欧州でもECB(欧州中央銀行)とスイス中央銀行、カナダの中央銀行が19日に、金融市場の不安を緩和するため、合計900億ドル(約9兆6000億円)の資金を短期金融市場に潤沢供給している。(了)

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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