FX外国為替情報のKlug(クルーク)
為替、海外投資でハイリターンを得るためのニュース、レポート、コラムを掲載

アルゼンチンの通貨危機が穀物市場に与える影響とは

 米国は今後も追加利上げ継続の方向性に変化はないとの見方が強まるなか、新興国から資金が流出し米国へと資金が流入する動きが続くなか、アルゼンチンの通貨ペソが大幅な下落を余儀なくされている。

 今年に入ってからアルゼンチンの通貨ペソは米国の追加利上げを受けて大きな下落を強いられている。

 年初時点では1ドル=18~19ペソで推移していたが、米国の追加利上げと追加利上げ回数の引き上げ観測が強まったことで5月には1ドル=24ペソ台まで下落。その後は一時的に下げ渋る動きが見られたものの、8月に入ってから再び下落傾向が強まり、8月半ばには一時的とはいえ1ドル=30ペソまで下落。

 その後もペソ売りの動きは止まるどころか、8月下旬にかけて加速化し8月30日には1ドル=42ペソ台に達した。さすがにこの水準に達した後はペソに対する売り警戒感も強まり、ドル・アルゼンチンペソの動きも若干の落ち着きを取り戻したように見られるが、それでも38~39ペソ台での推移が続いている。

 このペソの下落に対抗するためにアルゼンチン中央銀行も緊急利上げを繰り返し行っている。今年に入ってからの緊急利上げは4月27日の3%、5月3日に3%、5月4日には6.75%、そして8月13日には5%、そして8月30日には15%の引き上げを発表しており、現在の政策金利は60%に達している。

 さらに財政再建策として、今週に入ってから発表されたのが、穀物輸出に対する輸出関税だ。

 アルゼンチンのマクリ大統領の発表によると、コーン、小麦の輸出に関しては1ドルに対して4ペソの輸出関税が追加されることになる。これはおよそ10%の輸出関税に値するが、これによってアルゼンチンのコーン輸出が縮小する可能性が出てきた。

 マクリ大統領は2015年に新大統領として就任した当時、小麦、トウモロコシの輸出関税は撤廃したほか、大豆についてはその当時の35%から毎年5%ずつ段階的に税率を引き下げることにより、穀物輸出の活発化を目指す政策を実施した。

 この政策に後押しされ、アルゼンチンのコーン輸出は15/16年度には前年度の1896万3000トンから2164万2000トンに増加するなど、初めて2000万トン台に達したうえ、その後も2000万トン台の輸出を維持するばかりでなく、18/19年度には過去最大となる2700万トンの輸出量が見込まれていた。しかし輸出関税が賦課されることによりコーン輸出魅力が低下すると同国のコーン作付面積が縮小する可能性も出てきている。

 アルゼンチンでは2001年末の経済危機発生の際に財政再建策として穀物輸出に関税を賦課した経験がある。その後、2008年には輸出関税は固定税率から国際価格に連動して変動する可動税率にシフトすると同時に、輸出制限が設けられたことで採算性の下がった小麦の生産が減少する一方、利潤性の高い大豆は積極的に生産が進められた経験がある。

 コーンは、小麦のように減産は強いられず、2001年から輸出関税が撤廃される2015年までの間、生産量は伸び悩み3000万トンに達することはなかった。

 15/16年度の同国のコーン生産量が2950万トンだったのに対し、16/17年度には4100万トンへと急激に増加した。17/18年度は3300万トンに減少しながらも18/19年度には再び4100万トンに増加すると見込みである。輸出関税の撤廃を含めた穀物生産を後押しする政府による政策が、同国のコーン生産量に大きく影響を与えている様子が窺われる。

 それだけに、10%程度の輸出関税もアルゼンチンの農家の生産意欲を後退させる可能性がある。

 問題なのは、アルゼンチンが世界第3位のコーン輸出国ということ、そしてアルゼンチンの通貨ペソの見通しには不透明感が強く、再び経済破綻するリスクが高まっているという点だ。

 2001年の経済破たん時には、ペソの下落を受けて穀物輸出業者の利益拡大が見込まれる、としたことが輸出関税賦課の理由の一つとされた。当時と現在では穀物輸出を巡る環境が異なるうえ、政府も同じ轍を踏まないよう他の政策が進められる可能性がある。

 ただ、財政の建て直しを図るための政策として税金の徴収が開始されたことにより、2001年の経済破たん時と同様の手段が適用される可能性は残されている。そうなれば、採算性の高い穀物へと生産が傾倒することになり、結果として穀物需給バランスが崩れることが予想される。

 なお、輸出関税追加が発表される前、ブエノスアイレス穀物取引所は輸出関税が撤廃されたことが最大の理由として18/19年度のアルゼンチンのコーン作付面積は前年度から7.4%拡大した580万ヘクタールに達するとの予測を発表していた。

 しかしながら、輸出関税の追加が発表されたことで、同国のコーン生産見通しは修正を迫られていると見られ、その程度によっては世界のコーン需給に引き締まり観測が台頭する可能性も出てきている。

 また、需給の引き締まりに至らなかったとしても、アルゼンチンが世界第3位のコーン輸出国としての立場を失う別のリスクもある。アルゼンチンに次ぐ世界第4位のコーン輸出国であるウクライナの18/19年度のコーン輸出量はアルゼンチンの2700万トンに対し2450万トンと肉薄しているからだ。

 17/18年度のウクライナのコーン輸出量は1850万トン(見込み)だったが、18/19年度は生産量が前年度の2412万トンから3000万トンに引き上げられることで、輸出量の大幅な拡大が実現される見通しとなっている。
 
 アルゼンチンとウクライナの18/19年度のコーン輸出量の差は僅か250万トンへと縮小しているため、輸出関税によってアルゼンチンのコーン生産意欲、そして輸出が落ち込むようであればコーン輸出国大国として立場が低下しかねない。これは同時に、結果として輸出関税を追加することによって財政再建を果たすという政策にとってもマイナスの影響が及ぶ可能性があることを意味している。

 米国では今後も追加利上げ方針が維持されると見られ、これを受けて米国へと資金が流入する動きが続くと予想される。アルゼンチン中央銀行は大幅な利上げに踏み切ったが、これはかえって懸念を強める結果をもたらしており、アルゼンチンの経済危機は一段と厳しさを増す見込みとなっている。

 この通貨危機や財政立て直しの政策として再導入された穀物への輸出関税だが、今後も過去に経験したように税率の引き上げが続くのか、もしくはそれ以外の手段が検討そして実地されることになるのか。同国にとっては築き上げた穀物輸出大国としての地位が揺らぎかねない事態に直面しているともいえるだけに、今後の輸出関税の動向に注意しておきたい。

【ご注意】本ブログに掲載されている情報の著作権は株式会社みんかぶに帰属し、本ブログに記載されている情報を株式会社みんかぶの許可無しに転用、複製、複写することはできません。

平山順(ひらやま・じゅん)氏

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

株式会社日本先物情報ネットワーク

メールマガジン

山岡和雅が毎日発行!
外国為替ディーラーの心の中

毎日の為替相場を、市場参加者の目を通して判り易く解説。為替ディーラーの本音は?【まぐまぐ殿堂入り】

バックナンバー

朝刊 ニューヨーク為替市場レポート
米国市場の動きを、朝一番に配信!! FX、外国為替、米国株、米国金利など、テレビやWEBサイトでは得られないニューヨーク金融市場情報のほか、アナリストの独自解説も配信します。

バックナンバー

powered byまぐまぐトップページへ