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翻弄されるNY原油市場

 6月22日の取引で大きく値位置を切り上げたNY原油は、その後も強い足取りを維持し同月26日の取引で中心限月の8月限の終値ベースで70ドルを突破した。

 堅調地合いはその後も続き、6月29日には一代の高値を更新して74.15ドルで終了。今月2日の取引ではやや地合いが緩みながらも翌日3日には再び地合いが強まり、75.27ドルの高値を付けた後、74.14ドルで終えている。

 NY原油の強い足取りは今始まったわけではない。そもそもは米国によるイランの核合意離脱と同国への経済制裁再開決定を受けたイランからの供給量縮小懸念が価格上昇のきっかけとなっていた。

 米国は5月にイランの核合意離脱を決定、続いてイランに対する経済制裁の再開を決定した。特に米国がイランの原油輸出を抑え込む姿勢を見せたことが買いを刺激し、NY原油の中心限月は5月20日には70ドル台に達している。

<曖昧なOPECの対応>
 原油価格が70ドルを突破したことは上値警戒感を強めることとなり、同時に6月22日に開催のOPEC総会での協調減産枠の緩和見通しが浮上し、これが価格の下落を促したため5月下旬から6月下旬までNY原油の中心限月は65ドルを前後する足取りを演じていた。

 それにもかかわらずNY原油が再び70ドル台に値を乗せてきたのは、6月22日に終了した第174回石油輸出国機構(OPEC)総会、そして続く23日に行われたOPECと非OPEC加盟の産油国との間で行われた第4回大臣(拡大)会合において7月1日以降の減産枠の緩和が決定されたにもかかわらず、その幅が需給ひっ迫感を和らげるには不十分との見方や、内容が曖昧だったことが懸念を呼んだことが背景となっている。

 なお、今回のOPEC総会で決定されたのはOPEC加盟国、非OPEC加盟の産油国と合わせると147%に達していた減産遵守率を100%まで戻すことだった。具体的な増産量、そして各産油国の増産の割り当ても決定されず、ハーリド・ファーリハサウジ石油相が、およそ100万バレル(日)の増産になる、と言及するにとどまるという曖昧な内容だった。

 この曖昧な内容を受けて石油価格が上昇するなか、トランプ大統領は前週末にサウジアラビアのサルマン国王が200万バレルの増産を約束した、とのツイートを行ったことで週明けのNY原油は下落した。

 トランプ大統領のツイートに対し、ホワイトハウス側がその日のうちに「サウジアラビアには200万バレルの余剰生産能力がある、サウジアラビアは必要があれば増産をすることに合意した」と修正コメントを発表したことが市場のパニックを和らげた。

 実際、OPEC加盟国の減産遵守枠は120万バレルであり、OPECはウェブサイトにおいて2018年5月時点のOPEC加盟国の遵守率は152%に達していたことを明らかにしているが、OPECの減産枠が120万バレル(日)であるため、現在の減産量は計算上はOPEC加盟国の減産超過量は62.4万バレルとなる。

 仮にサウジアラビアが200万バレルの増産を実施した場合、この減産超過量を大幅に上回るだけでなく、OPECの減産遵守枠を上回ることになり、協調減産そのものが崩壊してしまうことになる。そうなれば、これまで協調減産に向けて盟主としての役割を果たしてきたサウジアラビアのOPEC内での信用は失われることになるだろう。

 また、サウジアラビアの余剰生産能力が実際に200万バレルあったとしても、実際に生産量を最大まで引き上げてしまうと、他の産油国の減産など非常時における対応枠を失ってしまうことになり、緊急時のエネルギー供給の保険を失ってしまうことになる。

 そもそも、元を正せば今回の原油価格の上昇は、米国がイランの核合意を離脱しその上でイランに対し原油輸出ゼロを目指す経済制裁の再開を決定したことが原因となっている。

 それにもかかわらずトランプ大統領はサウジアラビアの増産約束ツイートを行った後、7月1日にはFOXニュースにおいて、現在の価格高騰はOPECに責任がある、としてOPECを非難する発言を行っている。

 これらの一連の流れを見ると、トランプ大統領は自らの政策によって引き起こされた原油価格の高騰に対する非難を退けるためにOPECの名を挙げた。

 さらに裏読みすれば、イランに対する経済政策を実施する時点で予想された原油価格の高騰に対しOPEC、非OPEC加盟の産油国との間で価格上昇時の対応策についてすでに何らかの合意をしていたにもかかわらず、なかなか原油価格の緩和に向けた動きに進展が見られないことに対しトランプ大統領自身が苛立ちを見せている可能性があると思われる。

<翻弄される原油市場>
 原油価格高騰による経済への影響に対する懸念を受けてOPEC、および非OPEC加盟の産油国に対しては増産圧力がかかっており、OPECそして非OPEC加盟の産油国もこれに曖昧ながらも応じた形で減産枠の遵守率緩和という形での増産が決定されたが、今後、ただちにOPECの産油量が増加する可能性は高くはない。

 というのも、減産順守率の緩和が決定されたとはいえ、経済制裁の再開が決定されたことで今後はイランの産油量及び輸出量は減少することが見込まれるうえ、経済混乱に陥っているベネズエラの産油量は今後も減少することが見込まれるからだ。

 OPECの月報によると、5月時点の産油量(日)はイランが382万9000バレル、ベネズエラの産油量は前月の143万4000バレルから139万2000バレルとなっている。

 ベネズエラの産油量(日)は2016年が215万4000バレル、2017年が191万1000バレルだった。なお、同国の産油量は2017年後半から急激に落ち込んでおり、今なお、減少傾向にある。

 イランに関しては380万バレル前後での石油生産が続いているものの、経済制裁が発動されれば急激な落ち込みは避けられない。なお、以前、イランが経済制裁を受けていた2015年は、同国の産油量は約280万バレルとなっていた。

 注目されるのはロシアを中心とする非OPEC加盟の産油国がどの程度の増産が実施可能か、という点だが、OPECに関する限り、今回減産遵守枠の緩和を決定しながらも、それが実現出来ない不確定要素を抱えていることが懸念材料となる。

 ただ、その一方では原油価格の高騰は新興国の需要減少を促す可能性がある。特に米中間の貿易戦争を受けたリスクオフムードが新興国からの資金流出を促していること、米国での利上げによるドル高傾向、がすでにネガティブな影響を与えるなかで原油価格の高騰が続けば、新興国経済への影響は避けられず、これらの国々での需要が減少する見通しが強まることになる。

 さらに11月にはトランプ大統領の与党である共和党が上下両院で過半数の議席を維持できるかどうか、つまりトランプ政権の是非が国民によって判断される中間選挙を控えるなか、トランプ大統領は高騰する石油価格への対応をより一段と強く産油国に迫ってくる可能性もある。

 すでに減少傾向にあるベネズエラの産油量と今後の減産が見込まれるイラン、これにサウジアラビアを主とするOPEC加盟国、非OPEC加盟の産油国がどのように対応してくるのか、そしてトランプ大統領は高騰する原油価格の緩和に向けてどのような政策を実施してくるのか。

 ここに新興国の需要減少見通し、といった供給面での要因も加わるなか、原油市場は引き続きこれらの要因に翻弄されることになりそうだ。

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平山順(ひらやま・じゅん)氏

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

株式会社日本先物情報ネットワーク

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